【解説】東京大学2019年度第3問

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設問Ⅰ

球面レンズでの屈折を考える問題です。スネルの法則(屈折の関係式)と,与えられた微小角度の近似式を用いることで,幾何的に答えを導くことができます。特段難しいことは聞かれていないので,図形をよくみながら解答しましょう。

小問(1)

これはスネルの法則で十分です。屈折率\(n_1\)の部分から入射角\(\theta_1\)で境界面に入った光が,屈折率\(n_2\)の部分で屈折角\(\theta_2\)で曲げられました。つまり,\[n_1\sin\theta_1 = n_2\sin\theta_2\]ですが,角度は微小だから\(\sin\theta\fallingdotseq\theta\)の近似から,\[n_1\theta_1=n_2\theta_2 \quad \therefore \ \dfrac{\theta_1}{\theta_2}=\dfrac{n_2}{n_1}\]となります。

小問(2)

これは三角形の外角を求める問題です。中学生でもできるので良いでしょう。\[ \theta_1 = \alpha_1+\phi, \quad \theta_2=\alpha_2+\phi\]

小問(3)

問題文中にある通り,\(\mathrm{CP} \fallingdotseq x_1\)と\(\mathrm{AP} \fallingdotseq x_2\)という近似をすることにより,正弦の定義より次のように求められます。\[\alpha_1=\dfrac{h}{x_1}, \quad \alpha_2=\dfrac{h}{x_2}, \quad \phi=\dfrac{h}{r}\]

小問(4)

(3)の結果を(2)に代入すると,\(\theta_1,\theta_2\)は,\[\theta_1=\dfrac{h}{r}+\dfrac{h}{x_1}, \quad \theta_2=\dfrac{h}{r}+\dfrac{h}{x_2}\]となります。また(1)の答えを\[n_1\theta_1=n_2\theta_2\]としてこの結果を代入して,全ての項に共通する\(h\)で割ると答えを得ます。\[n_1\left(\dfrac{1}{r}+\dfrac{1}{x_1}\right)=n_2\left(\dfrac{1}{r}+\dfrac{1}{x_2}\right)\]

小問(5)

問題文に書かれている通り,中心Oと光源Cの位置関係により場合分けが必要です。

(1)はもちろんですが,(3)の結論も変わりません。問題に与えられた図を見ると,(3)の結論が変わらないように角度や長さが設定されています。

光源Cが点Oより左側にある場合

図形的関係から\[\theta_1=\phi-\alpha_1, \quad \theta_2=\phi-\alpha_2\]となるから,(3)の結果を代入して\[\theta_1=\dfrac{h}{r}-\dfrac{h}{x_1}, \quad \theta_2=\dfrac{h}{r}-\dfrac{h}{x_2}\]です。これを(1)に代入すれば答えを得ます。\[n_1\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{x_1}\right) = n_2\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{x_2}\right)\]

光源Cが点Oより右側にある場合

図形的関係から\[\theta_1=\alpha_1-\phi, \quad \theta_2=\alpha_2-\phi\]となるから,(3)の結果を代入して\[\theta_1=\dfrac{h}{x_1}-\dfrac{h}{r}, \quad \theta_2=\dfrac{h}{x_2}-\dfrac{h}{r}\]です。これを(1)に代入すれば答えを得ます。\[n_1\left(\dfrac{1}{x_1}-\dfrac{1}{r}\right) = n_2\left(\dfrac{1}{x_2}-\dfrac{1}{r}\right)\]

別々に求めましたが,結果を見てわかる通り,両辺マイナス倍の差しかなく,光源の位置によらず同じ結果を得ます。

設問Ⅱ

設問Ⅰで求めた結果において,\(r\)を適当な値にした時の変化を探っていく問題です。

小問(1)

境界面が平面なので,問題で言われている通り\(1/r \fallingdotseq 0\)の近似をします。(4)の結果に適用すると,\[\dfrac{n_1}{x_1}=\dfrac{n_2}{x_2}\]となります。今回は\(x_1=L_1\)だから,\[x_2=\dfrac{n_2}{n_1}L_1\]となります。これが境界面から見かけ上の光源までの距離だから,これに\(L_2\)を加えれば観察者から見かけ上の光源までの距離ができます。すなわち答えは以下の通り。\[\dfrac{n_2}{n_1}L_1+L_2\]

小問(2)

屈折率\(n_f\)の部分を挿入することにより,2回「屈折」を起こすことになります。(1)の結果から,観察者から見たときの境界面から見かけ上の光源までの距離は\[\dfrac{観察者がいる場所の屈折率}{光が通る場所の屈折率}\times 真の距離\]とかけることがわかりましたから,この結果を2回用いれば良いことになります。

まず屈折率\(n_1\)の場所で\(L_1\)の距離は観察者から見ると\[\dfrac{n_2}{n_1}L_1\]の距離に見えます。これは(1)と同じですね。次に屈折率\(n_f\)の場所で\(d\)の距離だけ光が進みますが,これは観察者から見ると\[\dfrac{n_2}{n_f}d\]の距離に見えます。これに残りの\(L_2-d\)の距離を加えれば,観察者から見た見かけ上の光源までの距離になります。つまり,\[\dfrac{n_2}{n_1}L_1+\dfrac{n_2}{n_f}d+(L_2-d)\]です。

次にこれが\(L_1+L_2\)と一致する条件を考えます。等号で結ぶと\(L_2\)は消えて,\[\dfrac{n_2}{n_1}L_1+\dfrac{n_2-n_f}{n_f}d = L_1\]となります。これを\(d\)について解くと答えが出ます。\[d=\dfrac{n_f(n_1-n_2)}{n_1(n_2-n_f)}L_1\]また屈折率の大小関係ですが,\(d>0\)でないとおかしいわけだから,分母と分子の正負は一致している必要があります。つまり,\[n_1>n_2>n_f \ または \ n_1<n_2<n_f\]となります。

小問(3)

設問Ⅰの(4)と(5)のどちらの状況か,と最初に聞かれていますが,これは今回\(n_1>n_2\)であることから,もし(A)の状況,つまり(4)の結論だった場合\[\dfrac{1}{x_1} < \dfrac{1}{x_2}\]である必要がありますが,\(x_1=2\,\mathrm{m}\),\(x_2=2\,\mathrm{m}\)であることから矛盾します。よって,(B)の状況である必要があります。

\(x_2\)は見かけ上の光源と観察者の距離である\(4\,\mathrm{m}\)から,\(L_2=2\,\mathrm{m}\)を引いて求めることができます。

ゆえに(5)の結論に与えられた数値を代入して,\[1.5\cdot\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{1}\right) = 1\cdot\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{2}\right)\]となるから,\(r=0.5\,\mathrm{m}\)です。

小問(4)

観察者から見て,もともと見かけ上の光源は本当の光源の位置より遠くに見えていたものが,レンズを使うことにより,本当の位置に見えているわけだから,このレンズは実像をレンズと物体の間に作っていることになります。ゆえにこれは凹レンズです。レンズの公式に,物体の位置4mと,実像の位置3mを代入して,\[\dfrac{1}{4}-\dfrac{1}{3}=-\dfrac{1}{f}\]となりますから,焦点距離は\(f=12\,\mathrm{m}\)です。

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